「ねぇ、お兄ちゃん。どうしても……そんなこと、しなくちゃいけないのかな?」


エマは涙ながらに、ジョンに尋ねた。


「だって、うららプリンセスとレオパードプリンス……本当のお父さんとお母さんみたいで。もう、耐えられない」

そう言って泣き崩れるエマに、ジョンも……

込み上げる想いを堪えることができなくなった。



その日。城の庭園での剣の稽古のこと。

ジョンはいつも通り、レオパードの剣を躱しながら、幼い剣士ながらも懸命に向かって行ったのだけれど……どうも、いつもの調子が出なかった。


「こら、ジョン。今日は集中力がないぞ!」

「うん……ちょっと、休みたい」

「そうか……疲れたか? 大丈夫か?」

「うん……レオパード。ちょっと、お話があるんだ」

「お話?」


ジョンはレオパードと共に、庭園の木の下に腰をかけた。


「うん。あのね……もし、もしだよ。僕とエマが実はこのパンターにとっての敵だったら、レオパードは僕達を殺す?」


それは、あまりにも唐突に聞こえたのだろうか。

レオパードは目を丸くした。

だがしかし、レオパードは優しくも真剣な眼差しをジョンに向けた。


「私もうららも、絶対にそんなことはしないよ。だって、私とうららにとって……ジョンとエマは、かけがえのない息子と娘、同然なんだ。だから……たとえ、私はジョンとエマが私達を殺そうとしたとしても。二人を信じているし、うららもそうだと思うよ」


レオパードは温かな口調でゆっくり、諭すように言った。

すると、堪え切れないジョンの瞳からは大粒の涙がポロポロと溢れて。


「ジョン?」

「レオパード……」


ジョンはレオパードにしがみつき、声をしゃくり上げて泣き始めたのだった。



ジョンとエマは、うららとレオパードに全てを打ち明けた。

自分達がヴォルブの四天王であること、ずっと二人を騙していたこと、そして、二人を殺す計画のための命を受けていること。

しかし、麗とレオパードは、静かに聞いて、その全てを受け止めてくれて。


「そう……ジョン、エマ。今までずっと、つらかったのね。ごめんね、気付いて上げられなくて……あなた達は、私達の大切な子供よ。だから……何があっても、私達が絶対に守る」


麗はそう言って、自分達を優しく包み込んでくれたのだ。


だから……

(僕達兄妹は、絶対にこの二人だけは裏切ってはいけない!)

ジョンはそう、心に固く誓ったのだった。