「あの顔、白石の兄ちゃんがやったのか?」


山崎先生は、今度は本当に驚いた顔をしている。


「あ…いや…」

口が滑ってしまった自分が悪いが、どう答えていいかわからない。

山崎先生の追求に、目が泳いでしまう。


「普段、感情的にならない奴がキレると怖いな。光太郎は、何をしたんだ?」


「え…いや…それも…」


襲われたなんて言えないし、お兄ちゃんが光太郎を殴ったっていうのも肯定したくない。




わー…どうしよう!



頭の中はもうパニック状態。


この場をどう切り抜けようか、迷っているとー…







「真優」


「!」


この声…


聞き覚えのある声で、背後から名前を呼ばれ振り返った。



「…お兄ちゃん」


名前を呼んだのは、お兄ちゃんだった。


鞄を肩に掛け、ポケットに手を突っ込んで立っている。



お兄ちゃんの登場に、焦っていた心が少しホッとした。





「…怖い顔」

「!」


ぼそっと言った山崎先生の言葉が、耳に届いた。



怖い顔って…お兄ちゃんが?



山崎先生の顔と、お兄ちゃんの顔を交互に見る。





「真優、早くしろよ。時間なくなる」


お兄ちゃんは少し声を張りそう言うと、返事も聞かずに背を向けて歩き出す。


「あ、ちょっと待ってよ!えっと…じゃあ、さようなら」


山崎先生に軽く頭を下げ、先に歩き出してしまったお兄ちゃんの後を追う。