『こんな事に』。その言葉の意味は何となく分かる。

生き延びる為に宮殿に入った私が自ら望んでこのような立場につくとは思えないと思っているのよね?

だから、無理やりさせられているのではないか。恐らくグラントはそう言いたいのだ。

「これは私が望んでなったの」

「アニ姉が望んで……?」

「最初はただ生き延びる為にこの宮殿で働き始めたけれど、今は違うの。違う理由が出来てこの宮殿にいるの」

最初は噂の通り冷酷な方だと思ったけれど、触れる内に優しさを知り……時折見せる笑顔に心を癒された。人は血に染まった王だと言うけれど、私はそうとは思わない。

確かに怖いときもあるけれど、陛下の優しい部分を私は知っている。



「覚えてる?国境近くの町に出かけた時に、人身売買の集団に捕まった時の事」

「……あぁ。助かったのはいいけどアニ姉が男に連れていかれた時の事だろ?」

「その男性が実はこの陛下だったの」

まさかグラントもあの時の男性が陛下だったとは気づいていないだろう。

宮殿で働く私ですらその時に気付かなかったのだから。

「……え?あの時の男が何だって??」

「陛下だったの」

「………はぁーっ!!?」

その言葉にグランドは思わず叫んでしまう。

まぁ……普通聞いたらそうなるだろう。