「ここが陛下の執務室だ。新人であれば滅多に入る事はないだろうが、一応覚えておくように」
「……はい」
宮殿内に入る事はあまりないからか、その煌びやかな雰囲気に思わず恐縮したが……何とも言えないような雰囲気がここには流れており、正直息が詰まる。
ピリピリとした緊張感が俺を包む中、見張りの兵士達はそんな俺に見向きもせず、ビシッと立っていた。
「……よし」
俺は何度か深呼吸を繰り返すと、手を前にドアをノックする。
――コンコンコン。。
その音は静かな空間に溶けるように消えていき、
「失礼します。グラント・セレファーナです」
勇気を出して言葉を発すると、中から陛下と思われる声が聞こえてきた。
「失礼します」
恐る恐るドアを開き中へ入ると、そこは煌びやかな宮殿内とは違って落ち着いた感じの内装をしており、ソファーが向かいあう席に陛下は座っていた。
陛下の前にあるソファーには恐らく正妃様となられるお妃様が座られていて、
「………ん?」
俺はその方を見た瞬間、思わず疑問の声が口から漏れてしまった。
だってそれは、
「……いや、そんなわけが…」
どう見てもアニ姉……にそっくりな女が座っていたから。
腰まで伸びた黒色の髪、青色の瞳。
ドレスから見える白い肌。
その全てがアニ姉そのものだった。
だけど黒髪はアニ姉しか聞いた事がないし、この国に…しかもお妃様で黒髪の人がいたのなら少なくとも耳に入ってきているはずだ。
……いや、国境近くだから届くか分かんねーか。
それよりも………この方は―――――……。