「貴女上手なのね」
「え……」
「売物かと思うぐらいとても美味しくてびっくりしたの」
そう言ってほほ笑みかけるその方はまさに淑女だった。
「い……いえ、そんな」
慣れない言葉に動揺する私。人にお菓子を作っても面と向かって美味しいと言われた事はそこまでなかった。
しかし、この方はどなたなんだろう?
「私はスフィア様の侍女をしておりますアニと申します。宜しければお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「あら、それは失礼したわ。私(わたくし)の名はフィグリネ・シュワルツ・ガルゴ」
フィグリネ……?
なんかどこかで聞いた事のある名。
確かスフィア様が以前……。
『フィグリネ様はこのハレムの中で最も長いとされる最年長者であり、ハレムを取り仕切る長のような存在の方……。しかも、強国と言われる国の王女という事もあり、権力的にも最大。仮にアルヴァン様がフィグリネ様を拒み機嫌を損ねたりなどした場合、フィグリネ様次第で戦争にもなりかねないだとか私は聞いたわ』
などと言っていた気がする。
となると……え?目の前にいる方がそのフィグリネ様!!??
「あら?驚かせてしまったかしら」
「い、いえ……そのような」
まさかここへ来られた方がフィグリネ様だとは思わなかった。
しかも、スフィア様が居られないときに。



