理由は簡単なもので、王位争いの為だとか…。
「そういえばアルヴァン王子様は正妃様をつくられておられませんでしたが、一体どなたを晩餐会に連れていかれるおつもりなのでしょう?」
この晩餐会では代々、正妃を王妃に紹介する意味も込めて必ず一人宮廷に連れて行くらしいが、アルヴァン王子様には正妃がいない。
たくさんの側妻はいるというのにね………。
だが、空いている正妃の座だからこそこうしてリフィア様が他の側妻様から勘違いされ被害に合われているわけで、
正直リフィア様は正妃を望んでおられない事から、誰でもいいので正妃を決めてくれと言った気持ちだ。
そしたら被害に合わなくて済むのに。
「今回の晩餐会……恐らく行かれるのは前年度と同じく第一妻のフィグリネ様だと思うわ」
「フィグリネ様……ですか?」
ここへ来て初めて聞く名だ。
「フィグリネ様とは一体どんなお方なのですか?」
ふと気になり尋ねてみるとスフィア様は一瞬表情を曇らせ、そしてゆっくりと口を動かした。
「フィグリネ様はこのハレムの中で最も長いとされる最年長者であり、ハレムを取り仕切る長のような存在の方……。しかも、強国と言われる国の王女という事もあり、権力的にも最大。仮にアルヴァン様がフィグリネ様を拒み機嫌を損ねたりなどした場合、フィグリネ様次第で戦争にもなりかねないだとか私は聞いたわ」
ハレムを取り仕切る長……か。
他国の王女という事はこの方も恐らく国の繁栄の為に嫁いできたのかしら?
「怖い方なのですか?」
表情を曇らせた原因が何なのかは分からないが、もしこの側妻様が良い方であれば……話を聞いて下さる方であれば、今流されている噂や嫌がらせを止めてくれるのではないだろうか。
このハレムの長と言われるお方だ。きっと今流されている嘘の噂もご存じに違いないだろうし。
「怖い方ではないわ…っ!ただ……誤解を解けなかっただけ」
最後に発せられた言葉はとても小さく、耳を澄ませてやっと聞こえるかぐらいの声量だった。
「誤解ですか?」
あまりにもその表情が悲しそうだったので、思わず聞き返してしまった。
「え、あ……なんでもないの!ごめんなさい。あのような話が出回っているけど、フィグリネ様は恐ろしい方ではないわ。聡明で美しく、まさにこの宮の鏡と呼ばれしお方。だから、今回の晩餐会も恐らくアルヴァン様はフィグリネ様を連れて行かれるのだと思ったの」
他の側妻様ですら尊敬する存在か……。
最初口に出された時は権力が高く、機嫌を取らねば戦争といったような印象だったけど実際にはそれは違い、賢く美しいお方なのだろうと私は思った。
それであるならフィグリネ様はもしかすると、使用人である私の話も聞いて下さるかもしれない。
一度、お取次ぎを願おう。
フィグリネ様に会う前に跳ね返されるかもしれないが……。



