持ってきた二つのグラスに酒を注ぎ、その一つを武の前に置く。


「サンキュー。」


それを取ると、直ぐに口へと運んだ。


「武、飲みすぎるなよ。」


俺の言葉に、その手が止まる。


「?」


「飲みすぎは痔に良くないらしい。」


「だから痔じゃねーよ!お前この下り何回やらせるきだよ!?」


「悪い悪い。」


俺は弧を描いた口にグラスをあてた。


「ところでよ、ヒロって誰かに似てねーか?」


スルメに手を伸ばしながら武が聞いてくる。


「誰かって誰に?」


「いやそれが思い出せねーから聞いてんだよ。
どっかで見たことあんだよなー。 なんかの集まりだったかもしんねーし、テレビだったかもしんねーし。」



確かにヒロならテレビに出ていてもおかしくない顔をしている。

それに、世界には自分に似ている顔の者が三人いるともいうが…

それでも、あの俺を虜にする顔が他にあるとは到底思えない。


「ヒロって兄姉いるのか?」


「弟の話しか聞いたことないが…」


そう言えば、ヒロから弟以外の家族の話を聞いたことがないな。
まあ、俺も家族の話をしたことはないが…


そんなことを思っていると、武が何か閃いた顔をした。


「あっ!思い出した!あれだよあれ!ここまで出てんだけどなー」


と、武はこめかみに手を当てる。


「それ、もう口通り越してるぞ。」


どこに手あててんだよ。


「そこだったらもう答え出てるだろ。
手あてるなら喉にしろよ。」


呆れて突っ込めば、武は「わ、業とだよ!」と焦り出す。




本当、武といると飽きないな。



それから俺達は朝まで飲み明かした。