1日の仕事が終わり自分の部屋へ戻ってくると、それを待っていたかのように胸ポケットに入れていたスマホか震えた。


スマホを取り出してみれば、画面には懐かしい名前が映し出されている。



「珍しいな、お前から連絡してくるなんて。」


「誠に聞きたいことがありまして。」



冷たい印象はないが、落ち着いた抑揚のない声がスマホから聞こえてくる。


長い付き合いだっていうのに相変わらず他人行儀な喋り方をする奴だな。


俺は昔を思い出して苦笑した。



「なんだ?聞きたいことって?」


一日中動かし続けた体をイスに腰掛け、次の言葉を待った。


「誠は今も柏木家に仕えているのですか?」



なんだ、急に?そんなことを聞くために電話してきたのか?



「ああ、柏木家だが、今は吉乃様付きの執事として藤沢邸にいる。」


「では、柏木浩都様をご存じですか?」


「!?」


電話の相手から思いがけない名前が飛び出し、驚きのあまり一瞬言葉を失った。


「やはりご存じなんですね。」


「なぜお前が知っている?」


「最近お会いしたんですよ。私が今お世話になっているところで。」



お世話になっているところって…



それを思い出すのと同時に体から血の気が引いていく。



「お前が今いるところってクラブだろ!? まさかヒロがー」


「少し落ち着いて下さい。厨房でバイトとして働いています。」


「バイトを!?詳しく聞かせてくれるか!?」



厨房のバイトと聞いて少しは安心したが、バイトをしているとはどういうことなんだ!?

これは、思っていたよりも早くヒロに会いに行くことになりそうだ。