「あいつ、本気でお前のことスカウトしたいって言ってたぞ。」



俺は、タバコをくわえた蓮さんの口が意地悪くニッと上がるのを確認すると、事務所の扉を開けながら振り返った。



「働きたいのは山々ですけど、蓮さんが寂しがるといけないから断っといて下さい。」


「俺の事は気にするな。」


「とか言って~分かってますよ。
何年蓮さんといると思ってるんですか。」



わざとおどけた調子で言って扉を閉めると、部屋の中から笑い声が響いてきた。




蓮さんに誘われて始めたこの仕事は、俺の性に合っていたと思う。


たまに逆上して暴れだす奴もいるが、例外なく返り討ちにしてきた。ケガをすることは……今日を除いては一度もなかった。

事務所を出て仮の仕事場、ホストクラブ『Blue glass』へ出勤。
それから馴れない愛想笑いや接客でくたくたに疲れはて、家路につこうと店を出たところで、店の常連客と言い合いになっている今回のターゲットを見つけた。

そいつを取り押さえる時、刃物で手を切りつけられたのだ。


連日徹夜で、とっくに疲労がピークを過ぎていたのもあるが…迂闊だった。

しくじったのは完全に俺の不注意が原因。


だが…


仕事で連勝続きの俺に、負けてはないがしくじったという意味で初めて付いた黒星は、以外にも思いがけない出会いを運んできた。