坪内さんちに住むことにしたので、火事で悲惨な状態になったアパートを解約するため不動産屋へ赴いた。

今月いっぱいで解約して、荷物は引っ越し業者の単身用のプランで運ぶことにした。少しずつ運ぶと言ったのに、坪内さんが勝手に手配してしまった。強引だよ、あの人。

坪内さんは今のベッドを捨てて、ダブルベッドを買おうとか寝惚けたことを言っている。気が早い。大体、ダブルベッドなんかどこに置こうというのだ。ていうか、そこまで気を許した覚えはないので断固拒否だ。

毎朝、朝食の準備をしてから坪内さんを起こすのが日課になりつつある。よくよく聞いたら、今までギリギリまで寝て朝食はとらずに出勤していたそうだ。言われてみれば、毎日始業間際にやってきて、デスクでブラックコーヒーを飲んでいた気がする。

えー。じゃあ、私の一宿一飯の恩義は何だったのか。実は迷惑だったのでは…?

「じゃあ、坪内さんは朝は食べない派なんですね?」
「いや、食べる派だ」

意味不明なんですけど。

「秋山が食べるなら俺も一緒に食べるよ。だから、毎日起こしてよ」

要するに、起きれない人なのね?坪内さんの意外な一面だ。何でも完璧にスマートにこなしてそうだったのに、こんなダラケた部分も持ち合わせているとは。