「秋山がスマホ持ったまま寝てるから。勝手に拝借して登録しといた」

な、なんですと!
私がソファーで眠りこけてしまったばっかりに、勝手にスマホを触られていたなんて。

「めっ、メールとか見てないですよね?」
「さて、それはどうかなー?」
「やめてくださいよ!」

抗議の声をあげると、坪内さんは可笑しそうに笑う。

「はいはい、見てないよ。お前の可愛い寝顔なら俺のスマホに入ってるし」
「なっ!!!」

なんだってぇぇぇー!
私の寝顔写真だと?!
何を言ってるんだ、この人は。
冗談はそのイケメン顔だけにしてくれ。

坪内さんは、自分のスマホのアルバムデータを私に見せてくる。
そこには、ソファーでぐっすり眠りこけてる私がいた。

「ひぃぃぃぃっ!」

声にならない悲鳴が夜道を駆け抜けた。
いやもう、ほんと、ありえないでしょ。

「いやー消してください」
「ははは!可愛いからいいだろ」
「誰かに見られたら困ります」
「誰にも見せねーよ」

絶対消してほしくて、坪内さんに絡み付いてスマホを奪い取ろうとする私。
坪内さんはその腕をぐっと掴んで動きを止めると、「秋山の寝顔は俺だけのものだ」と耳元で囁やいた。

くそっ、このイケメン王子め。
どこまでも私をときめかせる。

「明日、不動産屋さんに行こうと思ってたんですけど、やっぱりやめます」

私は一旦深呼吸をしてから、坪内さんの目を見て言う。

「もうちょっと、坪内さんちにお世話になっていいですか?」

坪内さんは満面の王子様スマイルで、「いらっしゃいませ、お姫様」と言った。

そんな、歯の浮くような台詞言わないでよ。悔しいけど、ときめいてしまったじゃないか。

悔しさと嬉しさと恥ずかしさでどうにもならなくて、その日私は初めて坪内さんにわがままを言って甘えた。

さっき食べ損ねたデザート。その代わりとして、帰り道のコンビニでバニラアイスを買ってもらった。わがままを言われた方なのに、なぜだか坪内さんは上機嫌だった。