とりあえず家財道具は無事だった。数日分の着替えと貴重品を鞄に詰め込んで、家を出る。とてもじゃないけど、あの臭いの中過ごすことは無理そうだ。

とは言いつつ、行く当てはない。実家はそれほど遠くはないけれど、会社へ通うことを考えると無理がある。
親友の奈穂子は彼氏と同棲中だし、さすがに気が引ける。

溜め息とともに頭に過ったのは、坪内さんだった。

直ぐさま頭をブンブンと振る。
いやいや、ありえないから。
なんでそこで坪内さんが出てくるの。

一緒に住もうとか、セクハラ発言をするからだよ。
本当にもう、腹黒王子め。
人の心を掻き乱すんじゃないわよ。

その日はとりあえず、漫画喫茶で夜を明かした。
シャワーもあるし食べ物もあるし便利だけど、やっぱりビジネスホテルにすればよかった。