奈穂子の言葉が頭を離れなくて、翌日の仕事中ぼんやりと坪内さんを眺めてしまう。
このイケメン王子様が私に興味とか?ないない。今だって睨みを利かせながら私に指示を出してきているのよ。資料だって何回差し戻されたかわからない。課長と違ってめちゃくちゃ厳しいんだから。

「聞いてんのか?俺に見とれてんじゃねーよ」
「はぁ?見とれてません!早く続きを説明してください」

もう、奈穂子が変なこと言うから。意識しちゃうじゃん。
今日もランチに誘われたけど、何となく気まずくて断ると、坪内さんはめちゃくちゃ不機嫌な顔になった。

「何でだよ?」
「だって最近噂になってるんですよ。坪内さんは王子様なんだから、目立つんです。私なんか隣にいたら勘違いされちゃいます」
「俺は勘違いされて構わないし」
「何でですか!」
「何でって、俺はお前のことが好きだし」

一瞬言葉が理解できなくて、頭がフリーズした。
”お前のことが好きだし”ってちょっと待って。そんなことありえないでしょ。

「はぁ?ふざけないでください」
「ふざけてそんなこと言うかよ」

焦る私に、坪内さんも語気が強くなる。わーわー騒いでいたら、仏の課長が笑みを浮かべながら私たちの元にやってきた。

「痴話喧嘩は外でやろうか。早くお昼食べてきてくれる?」

顔は笑っているけど、これ怒ってるやつだ。仏の顔も三度までだ、素直に従わねば。ていうか、痴話喧嘩って。課長も何言ってるの。