私、秋山日菜子の上司には仏と悪魔がいる。

仏は課長の飯田さん。いつも穏やかで怒ったところを見たことがない。その上頭がよくて説明も上手くて、人の話もきちんと聞いてくれる、とても尊敬できる上司だ。

それに比べて私の直属の上司、坪内主任。坪内さんは見た目からして王子様だ。さらさらヘアに整った顔。笑顔なんて胸を撃ち抜かれるくらいの爽やかさ。背も高いしスタイルもいいし、仕事もできる。社内一のイケメンと持て囃され、陰で王子様なんて言われているくらい。

だけど私は知っている。彼は悪魔だ。口が悪い、態度がでかい、腹黒い。呆れるくらいに俺様。なのに彼の部下になる社員は、皆彼に心を奪われ告白し、そして玉砕して辞めていく。今まで何人女を泣かせてきたのかわからない。

そんな感じなので、一向に坪内さんの補佐が定まらない。困り果てた課長が、課の庶務を担う私を兼務という形で坪内さんの配下に置いた。

嫌ですと喉元まで出かかったけれど、課長が「秋山さんよろしくね」と優しい微笑みで言うから。仏の言うことは絶対な私は、頑張りますと良い返事をしたわけだけど、実は少し後悔をしている。