「そうなの、イスに置いたままになってて…」



「ありがとな」



財布を渡す瞬間、指先と指先が触れ合う…なんてシチュエーションを思い浮かべる。



きゃーっ…。



あれっ。



武藤くんは財布の端を掴むとすぐに、ズボンの後ろポケットに入れてそのまま元の場所へ戻ろうとする。



もう少し余韻はないの!?



「武藤くんっ」



「なんだよ」



思わず呼び止めたけど、振り向いた武藤くんはなんだか迷惑そう。



お礼も言われたし、財布も渡した…確かにもう用事はないよね!?



けどもう少し話したいっ!



「あっ…あの、昨日のって…武藤くんだ…よね?あ、いえ…ですよね?」



なんだか気まずい空気が流れていて、つい敬語になってしまうほど。