大人の階段を駆けあがる




この気持ちの正体を知りたいのに、考えても全然分からない。私は答えを求めるように田崎の顔をじっと見つめた。


「え、な、なに?」

前髪で見え隠れしている瞳が泳いでいた。でも、相変わらず邪魔そうに伸びている髪のせいで表情は分かりにくい。


「切れば」

そう言って私は田崎の前髪を無理やり上げた。


「わわ、ちょっと……」

田崎はとても恥ずかしそうに手で顔を隠したけれど、「見せて」と、私は田崎の顔をじっくりと見た。


色が白くて、目は羨ましいぐらいの二重。鼻筋もスッとしてるし、まだ幼いけどけっこう整った顔立ちをしてることに今さら気づいた。


「なんで切らないの?」

顔を出せば絶対に印象も違うはずなのに。


「だって自信がないから……」

田崎はまた前髪を戻してうつ向いてしまった。


「すずめちゃんと違って俺はコンプレックスだらけだし、人に見られるのもあんまり好きじゃない。だからこうして前髪で顔を隠してると落ち着くんだ」

「私だってあるよ、コンプレックスぐらい」

「え?」

むしろありすぎるから、ひとつひとつ無くそうと必死になってる。


小さい頃に憧れたお人形みたいになりたくて。今もなれると思っていて。だから、毎朝時間をかけて髪の毛を巻いてるし、体型だって気をつけている。

私は周りから可愛いと思われたいから努力してるんじゃない。

自分で自分のことを可愛いと思いたいから努力してる。


私はスカートのポケットからピンク色のゴムを出して、田崎の前髪を結わいた。


「自信なんて人から貰うものじゃないよ。アンタは弱くて男らしくないけど、いいところがいっぱいある。人の目なんて気にしないで堂々としてなよ」


田崎は私の言葉に「うん」と頷いた。前髪を上げているから、少し潤んだ瞳がよく見えた。