大人の階段を駆けあがる




「じゃあ、なんで私のこと避けてたの?」

「風邪移しちゃうかもって思って……。長引いてたし、すずめちゃんが俺みたいにがらがら声になったら嫌だから」


なにそれ。まさかそんな理由で避けられていたなんて……。私が珍しく悩んだ時間を返してほしい。


「……はあ」

言い返す言葉も出なくて、私はそのままベンチに座った。



「本当にごめん。でも俺、本当に風邪だと思って……」

「もういい」

「え?」

「もういいよ」


嫌われたわけじゃなかったのなら。田崎が私のことを嫌になって避けていたんじゃないのなら、もういい。


「……怒ってる?」

田崎は顔色をうかがうように、再びベンチに腰かけた。


怒ってない。でも、怒っていたのに、今はそうじゃないと認めるのもなんだか悔しい。


「田崎のくせに」

「え、ごめん。やっぱり声、変だよね……」

「うん。超変」

「な、慣れて。俺も頑張って慣れるから」


おどおどしている田崎が私の知っている田崎で。こうして話していることに安心しているなんて、田崎の低くなった声よりも、私のほうがずっとずっと変だ。