「ごめん。
　咄嗟にナツカワくらいしか出てこなくて。」

　肩を竦めた蒼葉くんがさっきまでの男らしかった顔を崩して苦笑した。

「ドキドキしたよ。
　ナツカワなんて大きいところ。」

「そうなの？
　俺、ニューヨークのウォール街で金融関係のとかくらい言いたかったけど、さすがに嘘くさいかと思って。
　ナツカワはバイトに行ってるから嘘でもないんだ。」

　バイト……してたんだ。
　私、蒼葉くんのこと何も知らない。

「ナツカワになんのバイト？」

「開発的な？
　機密に関わることだから詳しくは言えなくて。」

　すまなそうな顔を向けられて首を振った。

「すごいね。」

「ただのアルバイトだよ。」

　それでも住む世界が違う。

　ナツカワにバイトと言われたら、せいぜい清掃のバイトに行ってるのかなって思うくらいの私とは……。