「あの……。」

 誰かが近づいて来て、声に振り返ると背の低い女だった。

「蒼葉に用?
 こいつ今、不機嫌だから話しかけない方がいいかもよ?」

 海斗のありがたい忠告もこの女は聞いていないようだ。

「高坂くん誰かのコーチしてるんですか?」

 人の話を盗み聞きして詮索するとは趣味がいいことだ。
 苛立ちが先に来て「だから何」と冷たく言った。

「お姉ちゃんがコーチを探していたので、もしかしてと思って……そんな偶然ないですよね。」

 そうか。こいつ中原さん。
 美希さんの妹か。
 全然……似てない。

 美希さんはもっと背が高くて、こんな童顔じゃない………。
 ま、妹に媚び売っても仕方ないし興味もないからいいんだけど。

「俺、人のこと詮索する奴、嫌いだから。」

「……ごめ、んなさい。」

 そう言うと彼女は小走りで去って行った。

「あらら。彼女きっと泣いてるぜ。」

「機嫌悪いって海斗が忠告したろ。」

「言い方ってもんがあるだろ。
 可愛い妹が泣かされたって聞いたらお姉さんなんて言うかなぁ。」

「海!うるせぇ。」

 なんだよ。
 海斗に余計なこと話すんじゃなかった。

 美希さんに……怒られるかな。
 美希さんには弱いだよ。俺は。

「謝って………おいて。
 俺は無理。」

 こんな場所にいるのはうんざりしてコートを出て行く。
 その後ろで海斗がぼやいた。

「ったく。世話の焼ける奴。」