美希さんの出て行ったドアをしばらく眺め続けた。
 残像を思い出すように目を閉じてため息を吐く。

 美希さんに触れる為によく分からない言い訳を並べた。

『元彼に見せつける為の恋人役』
『甘えられない美希さんを甘えさせたいから』

 何を言ってるんだか……と失笑が漏れた。

 ただ触れたいだけなのに、何か最もらしい理由を付けなければ、触れた先からすり抜けて逃げて行ってしまいそうで触れられる理由を探した。

 もう一度、ため息を吐いて心に浮かぶ気持ちも吐き出した。

 触れたい。抱き締めたい。キスしたい。
 この腕の中でもう一度………。

 仰け反って壁に軽く頭を打ち付けた。
 天を仰いで腕で顔を覆う。

「どんな苦行だよ……。」

 ハハハッと乾いた笑いを吐いても気は晴れなかった。