「恋人……の話を覚えてます?
 最初の日は若干調子に乗りました。
 次の日もですが。反省しています。」

 目を伏せてこちらを見ずにそう言った彼は続けて「でも恋人が必要ですよね?心配なんです……美希さんは」とも言った。

「心配?」

「仮にも襲われた男のアパートに来て深夜まで帰らない。」

「それは………。」

 痛いところを指摘された。
 これじゃまた襲われても文句は言えない。

 帰らなかったのは……最初は変な顔をした蒼葉くんが心配だったから。
 今はただチェスが楽しかったというか、蒼葉くんと過ごす時間が心地いいから。

 彼の何が心配だったのか、うまく説明できる自信がなくて黙っていると肩に腕を回されて引き寄せられた。

「あ、蒼葉くん?」

「名前。」

「へ?」

「名前、呼んでくれて嬉しかったです。」

「そう……なんだ。」

 引き寄せられてドキドキしているのに蒼葉くんはよく分からないことを口にする。

「だから俺にしておきませんか?」

「何を。」

「元彼に見せつける恋人役。」