「嫌な思いをさせてごめん。」

 アパートに入ると申し訳なさそうに言った蒼に首を横に振った。
 年上なのは嘘じゃないし、どこの馬の骨と言いたい気持ちも分からなくもない。

「元々、口煩い人でそれで家を出たんだ。
 たぶん……双葉があることないこと言ったんだと思う。
 ちゃんと訂正はしておくよ。
 無駄かもしれないけど。」

 ため息を吐き出して蒼は無理して明るく続けた。

「20歳になれば自由になれる。
 何もかもから。
 そしたら改めて……その時に言おうかな。」

 微笑んだ顔がとても寂しく見えて見ていられない。

「ダメだよ。
 親は世界に二人しかいない。
 私の為に喧嘩しないで。」

「うん。
 けど美希さんは世界に一人しかいないよ?」

「それは……そうだけど。」

 蒼だって世界に一人しかいない。
 でもさ……、だからこそだよ。