花村さんに心の隙間に入られるような言葉をかけられて温もりに流されてしまいそうだった。

 閉じた目を開いて目の前にいる花村さんをもう一度見た時に、この人じゃないとハッキリと自覚してしまった。

 目の前には花村さんがいるのに、別の人が思い浮かんだ。

 馬鹿みたいだ。
 もう随分前から分かっていたことなのに。

「出よう。」

 そう声をかけて私の隣を歩く花村さんから上品な大人の男性らしい香水の匂いがした。
 その匂いが好きだったはずなのに、むせ返るような嫌な気持ちになった。

 私が側にいたいのは、この匂いじゃない。

 私が側にいたいのは………。

「蒼……。
 蒼のアパートに行きたい。」

「もう遅いから帰れなくなるけどいいの?」

 振り向いた蒼の言葉に小さく頷いた。

 蒼のアパートに行って蒼の匂いにまみれたい。
 蒼の腕の中で蒼だけの蒼の………。

 彼は未成年で年下で。
 住む世界が違う遠い人で。

 そんな彼は私とは期間限定の火遊びで。
 所詮はセフレだ。
 けれど今はその関係にすがりつきたかった。