「あの、お姉さん？」

　返事を催促されて「あ、ごめん。呼び方ね」と思考を彼の質問に向けた。

　うーん…と考えてから妹を望美って呼んであげてと言うべきかと思案してどちらでも平気な方にした。

「今のままお姉さんでいいわよ。」

　この人が憧れの君なのかまだ分からない。

　自分で言うくらいだ。
　おモテにはなるんでしょうけど。

「コーチなのに？」

　不満を露わにした彼に困惑して仕方なく「美希よ。中原美希」と答えた。

　もしこの人が憧れの君だったら望美のことも名前で呼んでもらえばいっか。

「じゃ美希さんでいい？
　俺、蒼葉って呼んでくれてます？」

　う……。
　名前を覚えるの苦手なのになぁ。

　蒼葉……蒼葉………。
　頭にインプットしようとこめかみを両手で押さえながら回すと笑われた。

「仕方ないでしょ？
　名前覚えるの苦手なんだから。
　蒼葉くんね。
　覚えておけたら奇跡だと思って。」

　笑った顔が一瞬だけ固まったのが分かった。
　モテる俺にそんなこと言うんだって彼のプライドをズタズタにしてなければいいけど。