「ピアノでも有名だしテニスでも有名で、あのスタイルとルックスでしょ?
 モデルにならないかって話も何度もあるみたいですし。」

「すご……いね。」

「その上、有名国立大学に入ったとか。
 彼が望めばなんでも手に入るような人なんですってね。
 それなのに何も望まないから無冠らしいです。
 そこがまたかっこいいって。」

 そこまで話して話していたスタッフの子が不思議そうに言った。

「お知り合い……なんですよね?」

「え、えぇ。
 ……そういうことは話してくれなくて。」

「ますます素敵ですね。
 すごいところを敢えて見せないなんて。」

「………そうね。」

 蒼にとって取るに足らないことなのかもしれない。

 遠く離れた場所で演奏する蒼はライトアップされる中で美しく情熱的な音を奏でていた。
 綺麗な髪が体の動きに合わせて揺れる。

 茶髪にスーツなんてチャラく見えてもおかしくないのに、自然でそれに上品に見える。

 時折、感情を込めて弾く蒼が切ない表情を浮かべて胸が痛くなった。

 遠い人に思えてしまう……なんて片腹痛い。
 思えるんじゃなくて、実際にそうだったんだ。

 遠い遠い星の王子様のような人。
 お忍びで地球に来ちゃったのねってくらいの人だった。