彼はツカツカと中央に歩を進めた。
 動揺するみんなの前に立つと咳払いをした。

 背の高い彼は自然と注目を浴び、人を惹きつけるオーラを放つ彼にみんなが耳を傾けた。

「近々、大きなコンテストがあってピアニスト含め、音楽家はみんなナイーブになっている。
 こんな時期にピアニストを頼もうってのが無理だ。」

 無理だって知ってたのかな。
 みんなの前でわざわざ恥をかかせなくても……俯いて唇を噛んだ。

 彼はまだ続けた。

「それでもこんな時期に……例えドタキャンされたとしても3人ものピアニストを確保した中原さんの手腕は素晴らしいものだ。
 その手腕に感銘を受けて私が弾かせてもらいたい。」

 え…………。

「採用するかの判断は皆さんで。
 ピアノの準備が良ければ私はいつでもリハに参加できます。」

 わぁ。と、会場が一気に色めき立って、スタッフはみんな止まっていたリハの準備に取り掛かった。
 活気が一瞬で戻った……というよりも士気が前よりも上がった気がする。