教務室に戻ると、そこに居るみんなが翔太を見た。翔太はそれを気に止めず、自分の席へ戻る。


「山本先生、大丈夫ですか?」


隣の席の先生が翔太に話し掛けた。自分のクラスの子がリストカットをしたとなれば、他の教師も黙って居られないようだ。


「松山さん、あんなに明るい子なのに……」


学年主任の田中晃平(たなかこうへい)先生が翔太に言った。


「えっ、栞奈が?」


「いつもキノコ頭とかオジサンとかっていじってきますよ」


翔太はなぜかモヤモヤした気持ちを抱く。栞奈は自分には笑ってくれるだけだけど、いじってくれない。


「栞奈は俺をいじってくれない……」


「えっ……。先生のイメージが悪いのでは?」


晃平が翔太に語り掛けた。翔太はよく分からず、首を傾げた。


「生徒からは、“熱血教師のよく怒る恐い先生”らしいですけど」


「えっ?」


自分のイメージを知って、翔太はすごく驚いたようだ。それなら、栞奈も身を引くだろう。


「無理にいじれば怒られると思っているのでしょうね」


「そんな……」


「自分を変えれば、イメージも変わります。先生がたくさん怒り過ぎなければいいことです。小さいことに怒鳴っていたら、声も出なくなるでしょう。その証拠におでこにシワが出来てるじゃないですか」


「えっ、シワ……?」


「頑張ってくださいね。山本先生」


晃平は次の授業のため、準備をして教務室から出て行った。


「自分を変える……怒り過ぎない……」


晃平の言った言葉が翔太の頭の中で回り続けている。どうしようか、翔太は考えていた。