悔しい気持ちを胸に抱いて栞奈の病室から出た翔太と裕也。清香は先に帰って行った。


「友達だから一緒に飲まない?」


裕也が翔太に話し掛けた。こんなに明るくて優しい裕也に栞奈は惹かれたんだな、と翔太は思った。


「いいよ。家に電話を入れないと……」


「俺も家族に電話しよう」


裕也が言った言葉に翔太は携帯で滑らせていた指を止めた。


「裕也って……家族が居るの?」


「そうだよ。妻と息子が二人居るよ」


「そうなんだ……」


栞奈は裕也が好き。だけど裕也には……。そう思うと、翔太も辛くなってきた。


二人は妻に電話した後、翔太の車に乗って居酒屋へと車を走らせた。


「裕也の家ってどこ?」


「俺は、里山中学校の近くだよ。息子が通ってるからね」


「息子さんはいくつ?」


「上は中三、下は小六だよ」


「そうなんだ……」


いろんな話をしている内に裕也行き付けの居酒屋に到着した。


「いらっしゃい!」


中に入ると、元気のいいオジサンが迎えてくれた。


「裕也君、やっと友達が出来たのか?」


「はい!初対面ですけど」


「すごいなぁ。裕也君の性格を考えると、君が仲良くしてくれたのかい?」


どうやら、裕也はこの店の常連らしい。話が翔太に向けられて驚いた。


「そうですねぇ……」


「すげーな!お名前は?」


「山本翔太です。今は西山中学校で働いてます」


「おお、翔太君って呼んでいいか?」


「はい」


オジサンは立ち話もアレだと言って、カウンター席を進めた。そして、翔太は裕也の隣に座った。


「旦那さん、生ビール二本で」


「オッケー!」


オジサン――旦那さんは生ビールを持ってきてくれた。


「乾杯!」


旦那さんと三人で乾杯した。翔太はグビグビと飲んだ。