自分の部屋のベッドで翔太は考え事をしていた。


――栞奈、早く起きてよ。君と会って話したいよ。


いつものように日記を書こうとすると、ノックが聞こえた。翔太の妻、理恵(りえ)だろう。


「入っていいよ……」


翔太がそう言うと、理恵が入ってきた。理恵は部屋の地べたに座った。


「翔太のクラスでリストカットした子がいるのね?」


「うん……」


「なんか貴方、変わった気がするわ」


「えっ」


優しい声で翔太に語り掛ける理恵。翔太は驚きで黙ってしまった。


「なんかね、優しくなった。前まで亭主関白で熱血でウザくて恐ろしいイメージがあったの。今はそれと真逆だわ」


「そっか。俺は自分みたいな弱い子を守ろうと思ったんだ。栞奈と同じように俺もリストカットをした人間なのだから」


「本当に変わったね、翔太。そっちの翔太がいいわ」


「ふーん。俺は栞奈のことで精一杯なんだ。一人にしてくれないか?」


理恵は「分かったわ」と頷いて、翔太の部屋から出て行った。


翔太はシャーペンを持って、また日記を書こうとした。


「栞奈……」


翔太は愛しそうにその名を呟いた。


理恵はキッチンの前に立った。


「翔太は栞奈ちゃんが好きなのね……分かってたのに、ああ……」


理恵は自分の部屋へと足を進めようとするが、零れた涙が頬を濡らす。