美那は泣きながら翔太と一緒に談話室へ連れて行かれた。


「ここから先は誰にも言わないでくれる?」


「……はい」


何を言われるのか分からず、不安になる美那。翔太は窓越しに見える快晴な青空を眺めながら話出した。


「俺もやったことあるんだ。リストカット……」


「えっ……」


「ほら、この通り」


見せられた翔太の左腕にはいくつかのリストカットをした跡が残っていた。


「俺も栞奈みたいな弱い子を守ろうとして、いじめられたよ。“偽善者”なんてひどいあだ名を付けられてさ」


『ふざけるなよ、この偽善者が!』


『馬鹿な偽善者野郎め。さっさと消えやがれ!』


「君達がやったイジメよりひどかったよ。殴られたり、蹴られたりしてさ。しかも、動画もアップされて……最悪だったよ」


翔太は切なそうに空を見上げながら話していた。そんな翔太を見て、美那は自分がやったことがこんなにも傷付けてしまうことを思い知った。


「だから何度もリストカットをした。先生達は表面上はいい顔して、イジメに関わるのが嫌で何もしてくれなかった。リストカットしても、アイツらは反省すらしなかった」


「……」


「俺が先生になったのは、俺みたいな子を助けるためになったんだ……!いつの間にか俺は、熱血教師になって生徒を苦しめていた。栞奈がリストカットをして気付いたんだ。俺が教師になった理由を……」


感情的になって話す翔太を見ていて、美那は自分が情けなく感じた。


「いつも暗い顔をしてるけど、中身は明るくて……栞奈の色んなことを知るようになったら俺は変わってた。俺はそんな栞奈に惹かれてたんだ」


「栞奈に……惹かれてた……?」


「栞奈が俺と似ていたからなのかな。俺と栞奈は同類だよ。追い詰められて死を望んだ者なのだから。あと、彼女を俺が守ってあげたいって思うようになった」


翔太をボロボロの左手を強く握り締めた。


「俺はアイツを幸せにしたい。そう思ってたのに、俺は守ることができなかった……!俺は何もしてあげられなかった……!」


翔太は涙を流した。翔太に釣られるように美那も涙を流す。


「ああ、ごめんね。俺と君はみんなからすれば敵でもあるんだろうね。俺の聞いてもらってありがとう。スッキリしたよ!」


「はい……」


「じゃあ、俺は行くね!」


笑顔で談話室を出て行く翔太を見て、美那は大量の涙を流した。


「先生……オレ、ううん……私は、もうやらないから……自分のせいで人にリストカットなんかさせないから……」


翔太は涙を拭って教務室に向かおうとしていた。


「俺は変わる。変わるんだ、俺は……あの子を幸せに出来る先生にな……!」


左手を強く握り締め、胸に置いた。心臓の鼓動を微かに感じた。


「俺は生きてるからな……栞奈も死なせない……!」


翔太は教師になのに廊下を走って、教務室へ向かった。