さっき松本さんと話していた交番の1室から、奥へ続く少しだけ薄暗い細い道を通って【仮眠室】とプレートのかかった部屋の前で立ち止まる。
近くにはトイレや給湯室なんかもあって、ここで生活してるんだなぁ……なんて、ちょっと蓮見さんの世界を知れた気になってしまうけれど、
私が知ってる蓮見さんなんて、本当に1部でしかないんだろう。
「ふぅ……緊張する」
さすがに夜這いに来たわけじゃないけれど、蓮見さんが万が一起きていたら?とか、途中で起きちゃったら?なんて考えると怖くて中々ドアノブを握れない。
だけどやっぱり、1日の最後にどうしても蓮見さんの顔を見てから眠りたくて……
───ガチャッ
わずかに震える手で、仮眠室のドアを押し開いた。
電気は消されていて真っ暗で、目が慣れるまでの間、全く何も見えてこない。何度も瞬きを繰り返しては、やっと少しずつ見えてきた部屋の中に、1式布団が敷かれている場所を見つけて息を呑む。
……なるべく音を立てないように近寄って、起こさないように呼吸を止めて。
今にも口から出そうな心臓がバクバクとうるさいのを感じながら、私はゆっくりと蓮見さんが寝ているであろう布団の横にしゃがみ込んだ。
「〜〜〜〜〜っ!!!」
目の前で無防備に目を閉じて眠る蓮見さんを見た瞬間、猛烈に叫びたくなる自分に必死でブレーキをかけて、
荒い鼻息に「本当に頼むから鎮まれ」と頭で念じて、
呼吸の度に少しだけ揺れる蓮見さんの体に、今すぐ抱きつきたい衝動を自分で自分を抱きしめながら堪えた。


