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ん。


あれ?……なんだろう、おかしいな。




「……ねぇ、生田」


「ん?」


「今の、なに?」


「何って、赤羽。キスも知らないの?」




……身体中に寒気が走る。
自分の唇に触れた、やけに柔らかいあの感触を拭うべく必死に手の甲で自分の唇を擦る。



痛い。


夢じゃない……。




「そんな擦ったら口切れるよ。……俺とのキス、嫌だった?」



目の前で何でもないみたいな顔して私の顔を覗き込む生田は、同期入社の爽やかエリートで、仕事面に関しては何事もスマートにこなすし、頼んだことはしっかりやってくれるし、そりゃもう頼もしい同僚なんだけど



「……俺に男心について教えて欲しいって言ったのは赤羽じゃん?」


「嫌に決まってるでしょ!そもそも男心について教えて欲しいってのと、今のキスには何の関連性も見い出せない」



チャラい。
油断も隙もありゃしないほどに、クソチャラい。



「こんな資料室の密室で、めっちゃタイプの女の子が男心について教えて欲しいって言ってきたら、きっとみんなキスしちゃうっしょ」


「……ダメだ、生田。あんた宇宙人でしょ」




そう、私は蓮見さんと別れたあとなんとか電車に乗り込んで遅刻ギリギリでパソコンを立ち上げ打刻を終えた。


そして、午後からの会議で使う資料をコピーするべく生田を連れて資料室までやって来た私は「男心について」と題して生田に色々と聞いていたのだ。