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「間一髪……」

 フラフラしながら、地面に降り立つ。体のあちこちから激痛が襲った。

「ここはあの場所か……」

 呪文を唱えた瞬間に、無意識にこの場所を考えたらしい。ヤツの父親を死に追いやり、そして助けた崖道。

 息を切らしながら、岩場に体を横たえる。追手の気配を追うべく目を閉じてみたが、感じることはなかった。

「なぜ追手が来ないんだ? もしかして先回りしているのか……」

 何が何でも、やり残したことをしなければ――大鎌があったらこんな傷はすぐに治せたというのに、真っ二つに折られてしまったせいで使えないと判断し、ここに来てしまった。果たしてやり残したことを上手くできるんだろうか?

 小1時間程休憩した後に立ち上がる。傷は半分くらい、かろうじて塞がっていた。

「先回りされていたら、絶体絶命だな……」

 こんな姿を見たら間違いなく、アイツは自分を責めるだろう。どうにも面倒な人間だから。

 重い体を引きずりながら、何とかアイツの家に向かう。哀れな俺を、三日月が嘲笑うかのように輝いていた。

 家の周りにいるかもしれない他の死神の気配を捜したが、崖道同様に感じることはなかった。

(重罪を犯したはずなのに、どうして追手が来ない?)

 目を伏せて考えた。

 もしかしたら、やり残したことが分かっているから追って来ない。俺の手でそれを解決させようとしているのなら納得がいく。

 最期の力を振り絞り、アイツの部屋に入った。相変わらず、あどけない顔をして深い眠りについていた。

「目を覚ますなよ……」

 そっと告げてから屈んで唇を合わせせて、自分の力を分け与えたのだった。