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 廣田は1週間、大学に姿を見せなかった。

 憧れていた加藤先輩の死は廣田同様に俺にもかなりのダメージがあって、毎日思い出を引きずり出しては悲しんでいた。

 沈んだ気持ちをそのままに、大学の構内を歩いていると右肩をばしばしっと叩かれた。

「水留っ!」

 この声は――。

「廣田……」

「何よぅ、幽霊にでも会ったような顔して」

 無駄に元気に振る舞う廣田を見ると、痛々しくてたまらない。黙ったまま、目の前にある顔を見つめた。

「あのね、今日一緒に帰れるかな?」

 こうしてわざわざ声をかけてきたことで、ピンときてしまった。

 廣田に返事をせずにポケットから携帯を取り出して、バイト先に電話する。

「ゴホッゴホッ……。ずびまぜん水留ですが、店長いますか? あっ店長お疲れ様でず、水留でず。病院に行ったらインフルエンザって言われたので、3日間程休みもらえましぇんかね? はいはい、ずみまぜん有り難うございまず」

 仮病を使ったことで若干胸を痛めつつ、携帯を切った俺を見ながら大爆笑する廣田。

「ちょっと何、今の!? 大根役者ぶりったらないよ」

 お腹を抱えてカラカラ笑いながら、その場にうずくまった。

「廣田?」

 俺はそれ以上、何も言えなかった。ポロポロと涙を流しはじめたアイツに、声をかけられなかったのである。

(無理して、カラ元気だしやがって――)

「水留、ありがとうね……」

 佇む俺に泣き顔でお礼を言った廣田の腕を強引に掴んで、外へ促した。こんな姿を誰にも見られたくないと思ったから。