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 その夜はいつまで待っても、シルバーは来なかった。しょうがなく、布団に入って横になる。

「洸は寝たのかな……」

 今日はたくさん、いろんな話をした。

 瞼を閉じると、楽しそうにしている洸の姿が映る。何だかこれから、本格的な恋人同士になるような私たち。せっかく、これからだっていうのにな。

 そんなことを考えている内に、寝入ってしまった。

 どれくらい時間が経ったんだろう。額を何か硬い物でコツコツと叩かれる。うっすら目を開けると大鎌を手にしたシルバーが、ベッドの傍に立っていた。

 慌てて起き上がろうとしたら、大鎌の柄でオデコを押し付けて起きられないようにする。さっきの硬い物の正体はコレか――

「そのまま寝ていろ」

「遅かったね。何かあったの?」

「ヤツが寝るまで、これを持ち出せないからな」

 そういえばシルバーが出掛けるときは、大鎌をバイクに刺していたっけ。

「これを使って、キサマの寿命をヤツにうつし還す」

「うつし還したら私は死ぬの?」

 横たわる私に向かって、大鎌を構えるシルバーに思いきって訊ねてみた。

「すぐには死なない、今の寿命の半分だけをうつす。ただキサマの両親や妹よりも早く死ぬことになるだろう」

「寿命の半分くらいで、洸は助かるの?」

「ああ。選ばれし人間の魂を使うから通常よりは長生きする。交通事故くらいでは死なない」

 その言葉を聞いて、心の底から安心した。

「キサマは覚悟ができたのか? ヤツとは長く、一緒にはいられないんだぞ」

「それでも何もしないよりは長く傍にいられるのなら、喜んで洸に寿命をあげるよ」

 私が微笑んで言った後、シルバーは眉間にシワを寄せて何か呪文を唱える。その呪文を聞きながら、目を閉じて大好きな洸を想った。

 首筋にヒヤリとした大鎌の感触がしたと思ったら、一気に首を貫通する感じがした。思いっきり斬られたのに、全然痛みがない。

 恐るおそる目を開けると、狭い部屋の中で器用に大鎌を振り回すシルバーがそこにいた。

「終わった。これからヤツにうつし還してくる」

「ありがとね、シルバー」

「キサマの寿命は、左手の生命線の長さで分かる」

「確か手相占いでは長さ関係なかったと、どこかで聞いたことがあるよ」

 思い出しながら口にしたら、目を細めてバカにしたような顔をする。

「それは、オマエら人間が勝手に決めたルールだろ。こちら側ではそれが基準となっている」

「そう、少しでも長い線だといいね」

 起き上がろうとしたのに体がいうことをきかず、指先一本も動かすことができなかった。

「魂を弄ったんだ。体とのバランスがとれてないから動けんだろう」

「そっか……。シルバー、洸をよろしく頼むね」

「ヤツは幸せ者だな。いろんな人間から愛されて」

 言うのと同時に、その姿は消えていなくなってしまった。

 シルバー……きっと人間だったときの記憶があるような気がする。それが原因で、洸を助けているんじゃないかな。

 急にえもいわれぬ睡魔がきて、布団に埋もれる錯覚に襲われながら目を閉じる。

 明日この体で起き上がれるんだろうかと不安に思いながら、深い眠りについたのだった。