「悪い、休憩が遅くなって」

「平気です。クレームも出ずに済みそうでよかったですし、社長の貴重なシェフ姿を拝見できて光栄です」


私はカッコよすぎた彼の姿に内心興奮さめやらぬまま、笑顔で本音を漏らした。不破さんが元調理師であることは有名なので、こう言っても問題はないだろう。

彼も、ふっと笑いをこぼし、かつ真面目さを露わにした表情で言う。


「思わず身体が動いてたよ。ここは昔から働いてる人が料理長しかいないから、もっとスタッフを教育するべきだな」


その言葉で、彼がここへ来ても気まずいだとかいう心配はたいしてないのだろうとわかった。昔の仲間がいないのは、少々切ないものがあるけれど。

そのとき、先ほど不破さんが盛りつけを手伝っていた煮込みハンバーグが運ばれてきた。美味しそうな香りが漂うそれを見つめ、これまで何度も考えた疑問が再び浮かぶ。

なぜシェフを辞めて社長になったのだろう。腕がいいのは今日の彼を見ていればわかるし、やはり理由が気になる。


「……不破さん、以前は調理師として働かれていたんですよね。どうしてその道を進み続けなかったんですか?」