「なに」

「いえ、なんでも」

「観光したかったんだ?」

「……なぜ的確に当ててくるんですか」


ズバリ言い当てられた私は顔を背けて、いつかも言った気がする言葉をボソッと呟いた。

聞き取れなかったらしく、「ん?」と首を傾げる彼に、私は歩き出しながらいつものようにきりりとして答える。


「観光だなんて邪念はありませんよ。今日は仕事ですので」


こんなツンとした態度だと、また可愛いげがないと思われるかもしれない。

とはいえ、しおらしく“観光したかったです”と白状したところで、日頃から『無駄は省略』と言っているこの人が余計な時間を取ることなどしないだろう。

『出張に高い金をかける必要はない』と、エコノミークラスを取らせたくらいだし。

そう思って平然と振る舞ったにもかかわらず、不破さんは私の気持ちをすべて読み取っているかのように言う。


「仕事が終わったとはいえ、出張ついでの観光なんて純粋に楽しめないだろ。旅行したいなら、完全にオフのときに連れてってやるよ。ファーストクラスにも乗せてやるし」


その言葉に少しドキリとして、私は思わず足を止めた。振り仰げば、彼は高級そうな腕時計を見下ろして時間を確認している。