桃花はもしかして、私が不破さんのことを好きになっていると言いたいのだろうか。

たしかに、そう仮定して考えてみれば納得できる部分もある。社長になって距離を感じていた彼と、今また近づけて嬉しいと思っていることとか、彼の言動にドキドキさせられてしまうこととか。

恋の可能性が浮かび、心臓がうさぎのごとくぴょこんと跳ねた。

ちょっと待って、私、本当に彼のことが好きなの? ここ数年は縁がなかったことだから、無性に恥ずかしくなってくる。

……いやでも、これだけで好きだと決めるのは心許ないような。

颯太のときはどうして恋心を自覚したんだっけ? あれこれ考えなくても、自然と好きという感情を持っていた気がする。ということは、まだそこまでの想いではないってこと……か?

缶ビールを口のそばに持っていった状態で固まり、黙考する私に、桃花は怪訝そうな顔で「マネキンチャレンジでもしてるの?」とツッコんだ。

考えだすとよくわからなくなってくる。年を重ねると、簡単に恋愛もできなくなるものらしい。

結局疲れのほうが勝り、一旦考えることを放棄した私は、あやふやな想いと共に黄金の液体を喉の奥に流し込んだ。