「だからこそ、かまいたくなるんだよ。いつか絶対、お前の境界線を越えてやる」


後頭部を包み込んだまま宣言され、鼓動のスピードがますます速くなった。

それはつまり、私のテリトリーの中に入り込む、っていうこと? 彼のほうから踏み込もうとしてくるなんて。

『かまいたくなる』と言うくらいだから、深い意味があっての言動ではないのかもしれない。だとしても、彼が私に興味を持ってくれているのはすごいことのように思える。

呼び方が、いつの間にか“あんた”から“お前”になっていることも、地味に嬉しい。それだけで、なんとなく距離が近づいた気がして。

頬がほんのり熱を持つのを感じていると、彼は小さく笑みをこぼして手を離した。

そして、ピーターに向き直り、「お前も絶対手なずけてやるからな」と言っている。ちょっぴりムキになる彼は子供みたいで、つい笑ってしまった。

……私も、もっとこの人の中に侵入してみたい。これまでどんなふうに人生を歩んできて、今心の内ではどんなことを思っているのか、覗いてみたい。

謎の特別報酬への警戒心はどこへやら、心地よささえ感じる彼の隣で、私は久しぶりに胸が躍る感覚を抱いていた。