彼の前ではへこたれた姿は見せないように努力している代わりに、ひとりのときは少々気が抜けてしまう。


「はぁ~疲れた~……」


今日も、社長のデスクの右側、応接スペースが前方に見える位置に設けられた私のデスクで、なんとか会議の資料を作り終えたところで突っ伏した。

その直後、ガチャリとドアが開く音がしたので、瞬時に姿勢を正す。


「アリサ、明日“紫雲(しうん)”に行くの何時だっけ?」


腕時計を見ながらやってきた彼に、私はさも涼しげに仕事をこなしていたふうに、きりりとして口を開く。


「十時に訪問する予定です。が、オーナーがとてもせっかちな方なので、遅くとも十五分前には着いていたほうがよろしいかと」

「了解。あ、あと来週経営会議があるから……」

「会議室は押さえてありますし、お茶も手配済みです。資料もご確認ください」


腰を上げて社長に近づき、たった今作った資料を差し出せば、彼は呆気に取られたらしく目をぱちくりさせる。そして、資料を受け取るより早く、私の頭にぽんっと手を置いた。


「すげぇな。完璧」


驚きの中に嬉しさが滲む表情で、頭をぐりぐりと撫でられ、胸がきゅうっと鳴いた。