渡されたファイルは結構な厚みがあり、この膨大な情報を記憶するのかと一瞬怯んだが、もちろん弱音を吐くつもりはない。

これまでに会食などで自分が見聞きしたことも絡めて完璧に覚えてやろうと意を決し、「わかりました」と答えた。

社長はさらに説明を続ける。


「昼食は、俺たちが請け負ってるレストランを日替わりで回って食事をいただいてるから、アリサにも同行してもらいたい。味の確認はもちろん、従業員の働く様子も観察する、抜き打ちテストみたいなもんだな」


毎日どこかしらの施設を実際に訪れているんだ。その姿勢に感心して、つい本音を口にしてしまう。


「社長自ら視察されるんですね。すごい」

「どっかの給料泥棒とは違うんでね」


さらりと毒を吐く彼に、私は苦笑いを浮かべた。今の、プロバイドフーズの前社長のことでしょう、絶対……。

確かにあのオジサマとは全然違うわ、と認めて頷いていると、彼は優雅に長い足を組んでざっくりと話をまとめる。


「あとはスケジュール調整や顧客対応、出張時のチケットの手配とかが主な仕事だけど、今日は初日だからやれる範囲でいいよ」

「はい。できる限り早く慣れるように努力します」


背筋を伸ばしてしっかりと答える私を、彼はその双眼に捉え、ふっと微笑む。「期待してる」と返されたひとことが、ますますやる気を引き出してくれる気がした。