俺様社長はカタブツ秘書を手懐けたい

「あのレストランは、適任だと認められる責任者が定まりません。なんとかなりませんかね、ボスのお力で」

「そうだな……どっかから引き抜いてくるか。現状に満足していなかったり、伸びしろがあるのに無駄にされていたり。そういうヤツはまだまだ埋もれてるからな」


軽やかにキーボードを打ちながら淡々と答えた社長は、その手を止めてこちらに顔を向ける。専務の隣で皆さんのやり取りを静観していた私と視線がぶつかり、軽く心臓が跳ねた。

彼は今日も不敵な美しさを醸し出す笑みを浮かべ、おもむろに腰を上げる。


「後者の人間のお出ましだぞ。ようこそ、アリサ」

「っ、ア、アリサ?」


まず挨拶をするつもりだったのに、別人の名前を言われて、思わず繰り返してしまった。

誰ですかそれは。私はアリサキですよ……と、心の中でつっこんで気づいた。おそらくこの苗字を略しているのだろう、と。


「なぜ“き”を省略するんですか……」

「社長なりに距離を縮めようとしているんです。他の社員に対してもフランクですよ」


ボソッと漏らした私の呟きに対し、専務がさりげなく身体を屈めてこっそり教えてくれた。