「そうですね、不破社長の秘書は花形とは言い難いです。黒子か、家政婦だと思ったほうがいいかもしれません。破天荒な方ですから」

「黒子か家政婦……」


身の回りの世話や雑用をひたすら任されるってことだろうか。それが仕事だというなら構わないけれど、ものすごいワガママだったりワンマンだったらどうしよう。ブラック企業と変わらない気がするよ。

いろいろと想像して微妙な顔をする私に、専務はこう続ける。


「ですが、彼から学べることは多いと思います。不思議とついていきたくなるんですよ。行動を共にしていれば、そのうち有咲さんもわかります」


前向きな言葉をかけられて彼を振り仰ぐと、私を一瞥する眼鏡の奥の瞳は柔らかく細められていた。

やっぱり、専務もなんだかんだ言って不破社長を認めているのだろう。だから今でも、忠実に彼のお供をしているに違いない。

私も、やると決めたからにはへこたれないわよ。この四年間で鍛えた忍耐力、発揮してやろうじゃないの。

それに、社長は何度も私を救ってくれた。本人は覚えていなくても、ささやかな恩返しのつもりで、彼を支えていきたい。

エレベーターの扉が開き、光が差し込んでくる。なにかが始まるような予感がするその場所へ、私は決意を新たに、一歩を踏み出した。