コンビニの袋をぶら下げて社に戻り、エントランスホールのエレベーターのボタンを押した、そのときだ。

後方から話し声と挨拶が聞こえてきて、なんとなく振り返った私はドキッとして二度見してしまった。

すれ違う社員がしっかりと頭を下げて挨拶している相手は……不破社長と桐原(きりはら)専務! なんとタイムリーな!

今考えていたばかりの人が現れ、油断していた心臓が慌ただしく動き始める。

桐原専務は三十歳前後くらいの男性で、よく社長と行動を共にしている。私たちにきちんと自己紹介をしてくれたときに、『社長の世話係みたいなものです』と茶化していた。

ナチュラルな黒髪ショートと、知的そうなスクエアフレームの眼鏡が、クールでありながら優しさも感じる顔立ちにとても似合っている。溝口さんがインテリ王子と名づけているほどだ。

彼と社長が並ぶと、各々が持つオーラに相乗効果が生まれるというか、とにかく圧倒されてしまう。

そんなふたりがこちらに向かってくるため、私ははっと我に返ってエレベーターに向き直る。

社長たち、きっと役員室がある五階に行くはずだよね。どうしよう、このままだと一緒にエレベーターに乗ることになってしまう。

いや、別になにも問題はないだろうけど、なんか気まずいし緊張するし……!