さすが、行動が早い。厨房を見るだけでなく食事をしに来たということは、ここのランチ営業を引き受けることも考えていたりして。でも、式場でそんなことができるのかな?

少々怪訝に思いながらも、素敵で非日常的な式場内に入ると仕事のことを忘れてしまう。一緒にいるのが好きな人なのだから、尚のこと。

しかし、彼の頭の中にはそんな甘い考えはないだろう。あくまでビジネスのためにやって来たのだから。

夢から現実に引き戻された気分でひとり切なくなっていたとき、黒いパンツスーツを纏ったスタッフの女性が現れ、式場の奥へと案内される。

憧れの場所にいるのに俯きがちに歩いていると、私の顔を覗き込むようにして雪成さんがクスッと笑う。


「まだ気づいてないのか」


よく意味がわからないひとことが聞こえ、私は首を傾げて彼を見上げる。


「なにに?」

「今は仕事は関係ないぞ。交渉したのは、ここに入らせてもらうことだから」


彼がそう言った直後、木製の重厚な扉が開かれ、ぽかんとしていた私はそちらに目をやる。

そして唖然とした。だって、扉の先に見えるのは食事をいただく場所ではなく、厳かなチャペルだったのだから。