まぁ、男女にはいろいろあるよね、なんてどこか達観した気分で若かりし頃の両親を見ていて、ふと思う。


「お父さん、こんな顔だったっけ。記憶の中ではもっとカッコよかった気が」

「あっはっは。美化してたわね」


真顔で言う私に、母はおかしそうに笑った。しかし、その面持ちは少し憂いを帯びたものに変わっていく。


「麗が東京に出ていったあと、お父さんにもすごく申し訳ないことをしたって反省したの。あの人も麗の親なのに、私の気持ちだけで会わせないようにして、本当に悪かったなって」


切なげに昔の父を見つめる彼女からは、たくさん悩んだり後悔したであろうことが窺える。ひとりで私を育てるために、あえて父を遠ざけて、母なりに必死だったことが今ならわかるから、もう責めたりはしない。

静かに耳を傾けていると、母は目線を上げ、表情も声も明るくして話を続ける。


「ずっと連絡取ってなかったんだけど、そのことを謝ってから時々話すようになった。お店を始めたって聞いたときはびっくりしたわ」

「あぁ、リオンっていう洋食屋だっけ」

「そう、お父さんの亡くなったお友達が昔やってたお店なの。その人が病気になってからお店を閉めることになって、いつかまたお前がやってくれないかって頼まれてたみたいよ」