「あ~いやいや、男女にはいろいろありますからねぇ。お兄さんイケメンだから、彼女の二人や三人いても不思議じゃないし」

「そんな節操なしじゃねーよ」


思わず小声でツッコんでしまった。この年だし、それなりに経験はあるが、二股をかけるだとか面倒なことをした覚えはない。

というかまず、ここまで自分にぴったりハマる感覚を抱いた女性は、麗が初めてだ。


「本気で好きなのはあの子だけですよ」


窓の向こうに流れていく夜景を眺めながら、ほぼ独り言のように呟くと、運転手は意外そうな顔でミラー越しにこちらを見てくる。


「おや、じゃあなんでまた……」

「どれだけ想っていても、一緒にいられない理由ができてしまったんで」


自嘲する笑みを漏らして言い、窓枠に肘をついて深いため息を吐き出した。

麗と両親の墓参りをしたあの日、信じたくはない事実を知ってしまったから、仕事のパートナー以上の存在でいてはいけないと思ったのだ。

もっとも、俺がこんな態度を取ったことで、彼女が秘書を続けるかどうかもわからなくなってしまったが。