『雪成さんも、私と同じ気持ちだと思っていましたが……私の自惚れだったんでしょうか』


本気で彼女を突き放すなら、“そうだよ”と肯定してしまえばよかったのに。彼女とのことは遊びだったかのごとく振る舞うつもりだったのに。

どうしても麗を愛しく想う気持ちに嘘はつけなくて、はっきりとしたことは言えなかった。

それでも、ああやって泣かせて、傷つけることは目に見えていた。だから、今さら後悔しても愚かなだけなのに、胸が酷く痛んで仕方ない。

彼女が置いていった札をぼんやり見下ろしていると、前方から「あのー……」という困った声が聞こえてきて我に返る。

いけない、運転手の存在をすっかり忘れていた。

「新宿に戻ってください」と告げると、人のよさそうな年配の男性運転手は快く返事をして、再び車を走らせ始めた。

この人は俺たちのやり取りを全部聞いていたはずだから、きっと気まずいだろう。一応謝っておくか。


「すみませんね、見苦しいものをお見せして」


乾いた笑いを交えて詫びると、彼はこういう客のトラブルに慣れているのか、朗らかに笑って首を横に振る。