「そんな偶然があんのか」

「私も驚きましたよ。父は自分の店は持っていなくて、普通にレストランで働いていたんですけどね」


私がプロバイドフーズに入ったのは、表向きは魅力的に見せていた社風に惹かれたからだった。

でも、調理に関わる仕事を選んだのは、どこかで父と繋がりを持っていたかったからなのかもしれない、と今になって思う。


「母と離婚してから父がどうしているのかは、なにも聞かされていなかったんです。でもこの間の電話で、母が珍しくそのことを話してくれて、今も地元で料理人を続けていることがわかりました」


父の近況を知ることができただけでも、ずっと心に巣食っていた不満は小さくなった。雪成さんの話を聞いたあとだと、父がやりたい仕事を続けられているのはすごいことのように感じる。

雪成さんは優しく微笑み、こんな言葉をかけてくれる。


「よかったな。お前は俺と同じにはなるなよ」


彼のそのひとことにはとても重みがあり、私はしっかりと頷いた。

私は今からでも間に合う。年末年始は久々に実家でゆっくりして、母とたくさん話をしよう。父のことも、もっと聞いてみたい。