「その呼び方、やめてください……。他の女の人の名前を呼ばれてる気がしちゃうので」


やっぱりちゃんと名前で呼んでもらいたい、という乙女心に任せて正直に物申すと、彼は一瞬キョトンとしたあと、ぷっと吹き出した。

からかっているのではなく、なんだか嬉しそうに、愛おしそうに笑うから、否応なくキュンとさせられる。


「最高に可愛いな、お前」


しかもこんなセリフを口にされて、堪らないといったふうに抱きしめられたら、喜ばない女はいないだろう。

逞しい腕の中でひとときの幸せを噛みしめていると、耳元で甘い声が囁く。


「お気に召すまで呼ぶよ。……麗」


ただ名前を呼ばれただけなのに、耳から全身に恍惚と満悦が広がっていく。これだけで、自分が彼の特別になれた気になってしまう。

桃香とのことも解決していないし、せっかくの手料理も冷めてしまうし、不破さんの本心をしっかり確かめたい気持ちもある。

やらなければならないことはたくさんある、けれど……今はただただ優越に浸っていたい。

少々後ろめたくなりつつも、諸々はしばし後回し。私も彼の背中に手を回して、ひたすら強く抱きしめ合った。